人口減少社会における地域インフラのあり方に関する研究 -フードデザート地域の将来予測-

2020.02.10

1. 研究概要

インフラには、電気・水道・ガス・交通・通信が挙げられますが、現代の生活に欠かせない購買施設も地域インフラの一つと言えるでしょう。購買環境に関する研究分野では、食料品の購買が困難な地域はフードデザート(以下、F D)と呼ばれ、特にFD地域の高齢者にとっては栄養事情の悪化や健康被害のリスクが懸念されています。そのため、F D地域の特定を試みる研究が盛んに行われており、移動販売や買い物支援等によるFD地域の解消に期待が高まっています。本研究では人口減少先進地である青森県におけるF D地域を特定し、人口及び高齢化推移と合わせて分析することで、将来、地域が抱えうるリスクを視覚化します。

2. 青森県における人口減少と高齢化

図1は青森県における40市町村の人口推移を示したものです。いずれの市町村も既に人口減少過程にありますが、2045年にかけてさらなる減少が予測されており、15万人以上の人口を抱える3都市(青森市、八戸市、弘前市)では人口ピークから約40%の減少となります。15万人未満の37都市について拡大した図2では、1970年に5万人以上であった4都市も約40%の減少となり、より人口の少ない3万人未満の都市においても減少が止まらない予測です。さらに、人口減少と同時に高齢化も進行します。図3は後期高齢者(75歳以上)人口の割合を示したもので、2020年以降、いずれの市町村もこれまで以上に早く高齢化が進行します。

高齢化率の進行と関連して、徒歩で食料品店舗までアクセスが困難な地域は、フードデザート(以下、FD)地域と呼ばれ、高齢者の栄養事情や健康被害が懸念されています。まず、図4に青森県内の食料品店舗の数と高齢化率の関連を示しました。後期高齢化率が20%を超える市町村で食料品店舗数が100件を超えるものはなく、高齢者が多く居住する地域がFD地域となっている可能性があります。

図1 青森県40市町村における人口推移

(総務省「国勢調査」及び社人研「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」より作成)

図2 人口8万人未満の37市町村の人口推移

(総務省「国勢調査」及び社人研「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」より作成)

図3 青森県40市町村における高齢化推移

(社人研「日本の地域別将来推計人口(2018年推計)」より作成)

図4 後期高齢者人口の割合(2015年)と食料品等店舗数(2018年)の関係

(高齢化率は、総務省「国勢調査」、食料品等店舗数は、NTTタウンページ「iタウンページ」より作成)

3. 青森県のフードデザート地域における高齢化率の推計

本研究では、青森県内の食料品店舗3308件を中心として半径800m圏外をFD地域としました。図5は八戸市を例としたFD地域であり、地理情報システムアプリケーション(QGIS)を用いて、八戸市内の食料品店舗439件をプロットし、中心から半径800mの圏域を描画したものです。圏域の外がFD地域となり、図中の100mメッシュ単位の5歳階級別人口を用いて、FD地域内の高齢化率を算出しました。図6は算出されたFD地域内の後期高齢化率(2015年)によって市町村を塗り分けたもので、色が濃いほどFD地域内に高齢者が多く居住する市町村となり、半島の沿岸にある佐井村、東通村や、内陸側にある西目屋村、新郷村で高い値となっています。この値が将来に渡ってどのように推移していくのかを示したのが図7になります。内陸側の西目屋村、新郷村では急激に増加し、2040年には20%を超えます。このような地域では購買環境の優先的な整備が必要と考えます。例えば、「公共交通・移動販売サービス等の充実」や「居住地の集約化」、あるいは「インターネット購買等のIT技術の普及推進」により、きめ細やかな購買環境の実現が求められるでしょう。

図5 八戸市におけるフードデザート地域の例

(「iタウンページ」より把握した食料品店舗をQGISによりプロットし、半径800m圏域を作成。背景地図はNEOGIS「基盤地図情報WMS」を利用。100mメッシュは国土交通省「国土数値情報」より土地利用細区分メッシュを利用。)

図6 フードデザート地域内の後期高齢化率(2015年)

図7 フードデザート地域内の後期高齢者人口の割合の推移

(将来推計には国土交通省「将来人口・世帯予測ツールv2」を用いた)