これからの地域医療に必要な機械工学と建築学

安心できる暮らしをつくる、工業大学ならではの医療アプローチ

医療技術の進化とともに、これまで救うことのできなかった命が救えるようになってきています。健康寿命も年々延び続け、それを支える最先端医療の重要性が増してきています。
一方、高齢化が進む地域社会では医師不足が深刻な課題です。震災や雪国ならではの災害も多く、緊急時の人命救出をどうするか、考えなければなりません。
八戸市立市民病院との連携のもと、着目したのは、緊急災害時の救急医療。自動車工学の知識を用いて、移動型緊急手術室である「ドクターカー」の開発を行っています。
多くの住民が歳を重ねても住み続けたいと感じ、いつまでも豊かで健康的な生活を送れる。そんなまちをつくるために、機械工学や建築学の分野から、これからの北東北の地域医療のあり方を考えます。

Focus 1

緊急災害時でも、高度な救命処置を実現するモビリティ

緊急災害時の救急医療では、その場での医療活動や患者の搬送を含めたくさんの課題が存在します。この課題を解消するために、八戸市立市民病院の助言を受け、八戸工業大学の自動車工学の知識や特装技術を活用し、移動型緊急手術室の開発を行っています。

地域課題解決のための移動型緊急手術室

移動型緊急手術室は、CPA患者(心肺停止)に対し、現地でPCPS(経皮的人工心肺補助装置)の装着手術などの、高度な救命処置を可能とする全国初の試みとなります。
国と県から運用許可がおり、平成28年7月1日から運用が開始され、全国初症例となる、CPA患者への現地におけるPCPS装着手術を成功させました。その患者さんは、後遺症もなく元気に退院されています。現在は、より高度な手術に対応させるための研究をしています。

救急・災害医療に対応した滅菌モバイルシンクの開発

救急・災害医療などの現場において、治療環境や避難所等の衛生環境を保つため、電力等を一切使わない滅菌モバイルシンクを開発しています。
東通村の理化学資材商社「ザックス」と共同開発に取り組み、八戸市立市民病院で活用している「ドクターカーV3」に搭載しています。現地で手術などの高度な救命医療を行う際に衛生環境を確保するために設計しました。
モバイルシンクは、少ない水で効率よく汚れを落とし、滅菌できることが特徴で、これからのドクターカーの活躍機会を増やし、多くの命を救うことができます。

Focus 2

災害時の救急車に依存しない地域医療を考慮した住まいとは?

災害時や緊急時に救急車が来てくれることが当たり前になっていますが、積雪寒冷地においては地表の凍結や積雪による通行止めなどといった、すぐには解消できない問題が発生します。そうしたとき、災害時に救急車が来るのではなく、「住まい」で行う医療のあり方を模索し、地域住民が手を取り合いながら、命を守る関係性作りを考えていく必要があるのではないでしょうか?

積雪寒冷地での「住まい」から見た地域医療のあり方

積雪寒冷地である北東北地方では、道路の凍結や雪による道路の封鎖などが発生します。特に、細くて狭い上に凍結してしまった坂道や積雪で除雪されていない道路などといったことが起こります。このような積雪寒冷地での自然環境は、地域医療において大きな障壁となっており、救急時・緊急時といった際に現場まで辿り着けなくなってしまうという問題に至っています。つまり、救急時・緊急時に車が辿り着けないとしたら、どうすべきかを考える必要があります。
その解決策を研究していく際、特に高齢化社会も進んでいる北東北においては、「高齢者が住んでいる住宅の病室化」という視点を考えることができます。それによって、災害時の救急車に依存しない地域医療の仕組みづくりを実現できるのではないかと考えています。
そのようなことを踏まえ、本研究では高齢者の住まいの状況を調査・把握することで、様々な高齢者の住環境を考慮した地域医療のあり方について検討しています。